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千葉地方裁判所 平成3年(ワ)1155号 判決

原告

橋本藤重郎

右訴訟代理人弁護士

中丸素明

岩橋進吾

山本政明

安原幸彦

被告

ノース・ウエスト・エアラインズ・インコーポレイテッド

日本における右代表者

アレン・ダブリュウ・ジョンソン

右訴訟代理人弁護士

福井富男

錦戸景一

主文

一  原告と被告との間で、原告が被告に対して労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

二  被告は、原告に対し、金一七七三万三五〇〇円及び内金四二二万九七〇〇円に対する平成四年一月一日から、内金一〇五五万六六〇〇円に対する平成五年一月一日から各支払済みまで年六分の割合による金員並びに平成五年六月二五日以降毎月二五日限り一か月当たり金五九万三一〇〇円を支払え。

三  被告は、原告に対し、金一三〇万円及びこれに対する平成三年九月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告のその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用は被告の負担とする。

六  この判決は、第二項及び第三項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一主文第一、第二、第五項と同旨

二被告は、原告に対し、金六〇〇万円及びこれに対する平成三年九月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三主文第二、第三、第五項につき仮執行の宣言

第二事案の概要

本件は、勤務中に被告旅客機内でシャンパンを飲んだことなどを理由に通常解雇された原告が、事実に誤りがあることなど右理由が解雇事由に当たらないとして解雇の無効を主張し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、未払賃金等の支払及び解雇に至るまでの被告の一連の行為が原告に対する不法行為を構成するとしてこれに基づく慰謝料等の損害の賠償を求めた事案である。

一前提となる事実(各項目の末尾に証拠を挙示していないものは、当事者間に争いのない事実である。)

1  当事者等

(一) 被告は、アメリカ合衆国ミネソタ州に本社を置く国際航空旅客運送業を主たる目的とする株式会社であり、我が国では、東京都港区に日本支社を置き、千葉県成田市、大阪市、那覇市等に事業所を設置している。

(二) 原告は、昭和四三年六月一〇日、被告に整備士として雇用され、以後、整備士として勤務してきた。

アメリカの航空会社に勤務しアメリカ籍の航空機を整備する者に必要とされるアメリカ連邦航空局付与の資格には、航空機の機体及びエンジンの整備を行うのに必要とされるエアーフレーム・アンド・パワープラント(以下「A&P」という。)・ライセンス並びに無線航法設備、無線通信設備及び航空機電機設備の整備を行うのに必要とされるラジオ・アンド・エレクトロニクス(以下「R&E」という。)・ライセンスの二種類がある。被告の整備部門もこの資格に対応し、A&P整備士とR&E整備士とに分かれている。

原告はA&Pの資格とR&Eの資格の双方を取得しているが、平成三年一月当時は、被告の新東京国際空港整備部に所属するR&Eの上級整備士として勤務していた(〈書証番号略〉、原告本人)。

(三) 被告には、ノースウエスト航空会社日本支社労働組合(以下「組合」という。)があり、原告はその組合員である。

2  本件解雇

(一) 被告は、平成三年八月一六日(以下特に付記しない日付の年号は平成三年である。)付けの書面により、原告を同月一八日をもって通常解雇する旨の意思表示をし、右書面は、同日、原告に到達した(以下「本件解雇」という。)。

(二) 右八月一六日付け書面には、原告が、被告の就業規則二六条B項二号、七号及び八号に該当する行為をしたので、本来ならば就業規則二六条A項七号(懲戒解雇)を適用すべきところ、就業規則二六条A項六号及び労働協約四二条により通常解雇する旨及び左記の具体的な解雇事由が記載されている。

原告は、乗客、客室乗務員その他の人命を左右する極めて重要な職務と責務にあるにもかかわらず(上級整備士という指導的立場でもある)、

1  一月七日NW〇〇七便の出発の直前、機内において、

①乗客用のシャンパングラスを手に持ち、シャンパンを飲んだこと(勤務中で、しかも乗客が搭乗している中で)。

②乗客用のシャンパンを飲んでいるところを、機内サービスの主任に見つかり、「それはシャンパンであることを知っているか」、と尋ねられ、原告は「はい」と答え、飲むのを止めるよう注意を受けたにもかかわらず、笑いながら「ほんのちょっとだけだから大丈夫だよ」と言って、注意を無視して再び続けて飲んだこと。

③原告の行為は、乗客が搭乗中のことで、乗客からも目撃されており、絶対安全を旨とする航空会社の名誉、信用を傷つけたこと。

(①、②及び③を以下「解雇事由1」という。)

2  同日、上司に届け出ることなく、また、指示を得ることもなく、他の出発便の整備を行ったこと(以下「解雇事由2」という。)

3  会社の自宅待機命令を無視して就労したこと(以下「解雇事由3」という。)。

(三) 被告は、八月一八日以降、原告を被告の従業員として扱わない。

二就業規則及び労働協約

本件解雇に関係する被告の就業規則及び労働協約の規定は次のとおりである(〈書証番号略〉)。

就業規則二六条 懲戒

A項 懲戒は下記の七種類とする。また情状によっては併科することがある。

懲戒は全て書面(Employee Report, Form PD-146)で当該社員に通知する。

1  譴責 始末書を提出させて将来の戒めとする。

2  減給 始末書を提出させて一回につき平均賃金の半日分を減給する。

ただしその減給総額が当月支払給与の総額の一〇パーセントは超えない。

3  降職 現在職位より格下げし、その職階の給与を支払う。

4  出勤停止 七日(労働日)以内としその期間中給与は支払わない。

5  昇給延期又は停止 次回の昇給を延期又は停止する。

6  解雇 予告を一か月前に行うか、又は一か月分の賃金を支払って予告に代える事がある。

7  懲戒解雇 管轄の労働基準監督署長の認定を受けて予告期間を設けることなく、かつ予告手当を支給することなく即時解雇する。

B項 次の事項に該当し、その情状が特に悪い場合には前項の6ないしは7の懲戒処分がとられる。その他の場合には具体的な事情に応じ前項の1ないし5の処分がとられる。

1(省略)

2 賭博、飲酒、風紀紊乱等により職場規律をみだした場合

3〜6(省略)

7  業務上の命令を守らず、又はこれを破り、又は戒告を無視した場合

8  会社の所有物、備品を破損、亡滅、遺失し会社の業務に損害を与えた場合

9(省略)

労働協約四二条 懲戒、解雇

従業員は正当なる理由ある時は懲戒又は解雇されることがある。

(後段省略)

三争点

本件の主要な争点は、①解雇事由の有無、②解雇権の濫用、③未払賃金等の額及び④不法行為の成否である。

第三当事者双方の主張

一争点①(解雇事由の有無)

1  解雇事由1について

(一) 被告

原告は、一月七日、新東京国際空港内に駐機中のNW〇〇七便の出発直前(出発時刻・午後六時〇〇分)、故障修理の依頼を受けて同機内に入り、退出する際、同機内の第二ギャレー(第二調理場)内において、乗客用に用意されたシャンパンであることを認識しながらギャレー内に置かれていたプラスチック製グラスに入ったシャンパンを飲んだ。これを目撃した機内サービスの主任であるスザンナ・ワイ・ホー(以下「ホー」という。)は、原告に対し、飲むのを止めるよう注意をした。原告はこの注意を無視して再度シャンパンを飲んだ。

原告のこの飲酒行為の際、同機内には乗客の大部分が搭乗済みであり、原告の右行為は乗客の目にとまり得る状況であった。

(二) 原告

被告主張の日時・場所において、原告がシャンパン入りのプラスチック製グラスを手に取り、グラスを口につけたことは認める。しかし、原告は、そのグラスの中身がシャンパンであるとは認識していなかった。

また、被告は、原告がシャンパンを飲んだと主張するが、原告は、ごく少量をすすったにすぎない。

そして、原告は、ホーの注意に応じてグラスをギャレーの脇に置いたのであって、注意を無視して再度シャンパンを飲んではいない。

さらに、原告の行為はギャレー内での一瞬の出来事であり、乗客の誰からも目撃されていない。

2  解雇事由2について

(一) 被告

原告は、前記1(一)の飲酒行為の後、アルコールを体内に入れた事実を上司に報告することなく、NW〇七四便、NW〇六〇便及びNW〇二二便の点検・整備を行った。

(二) 原告

被告が主張する原告の飲酒行為とは、真実は前記1(二)のとおりであって、飲酒したといえる程度のものではなく、それゆえ、原告には飲酒したとの認識はなく、また、業務に影響を及ぼす余地はなかった。

したがって、原告がその後職務を続けたのはむしろ当然である。

3  解雇事由3について

(一) 被告

被告は、一月一四日、原告に対し、同日以降自宅待機をするよう命じた。これは、前記1(一)の飲酒行為の重大性に鑑みると、原告を引き続き勤務につかせることはできず、また、原告の将来を考慮して原告に任意退職の機会を与えるためであった。

原告は、このように自宅待機を命じられていたにもかかわらず、八月一一日から三日間、新東京国際空港において、就労を強行した。

(二) 原告

被告の就業規則及び労働協約上、懲戒処分として自宅待機の定めはなく、定めがあるのは七日以内を期間とする出勤停止である。

被告は、一月一四日、原告に対し、一週間の出勤停止を命じた。その後、被告は原告に退職を強要しつつ、右出勤停止を無期限に引き延ばした。

原告は、整備士という職務上、最新の情報、知識、経験を要求されることから、一日も早く整備業務に就く必要があったため、組合と協議し、被告に対し事前に通告した上、八月一一日から三日間、就労した。

二争点②(解雇権濫用)

1  原告

被告が解雇事由として主張する事実は、真実は前記一1ないし3の各(二)のとおりであり、それらを個別に見ても、また、それらを総合しても解雇事由には該当しない。

仮に、原告の右行為が解雇事由に該当するとしても、次の事情を総合すると、本件解雇は解雇権の濫用に当たる。

(一) 原告は、シャンパンを誤ってごく少量すすったに過ぎず、その態様や量からして、原告の右行為を故意に飲酒した行為と同視することはできない。

(二) 原告は、右行為の後、所定の食事・休憩をとり、その後所定の整備作業を行ったにすぎず、業務上の支障はなかった。

(三) 被告は組合に対し、本件に関する処分について最終的な結論を早期に出す旨を何度も約束し、原告はその約束を信じたが、被告は約束に従った決定をなんら行わず、その度に原告は裏切られた。原告及び組合は、被告の四戸人事本部長が七月一九日に組合に対し、八月一〇日まで時間が欲しい旨の発言をしたのを受けて、被告に対し、八月一〇日まで待って返事がないときは処分はなかったものとして勤務につく旨を最後通告した。原告は、八月一〇日を経過しても被告がなんらの意思表示を行わないので、一一日から右通告どおり就労した。

会社は、原告の右就労に対し、あくまで就労を認めないという態度に出たため、原告は、一四日以降、自宅に待機していたところ、被告は、一六日付けで、右就労の事実を解雇事由に加えて、本件解雇の意思表示をした。

(四) 原告の前記一1(二)の行為を原因とする乗客からの苦情・抗議や業務上の支障は生じておらず、被告の名誉・信用は全く影響を受けていない。

また、原告は二十数年にわたり真面目に被告の整備士として勤務を続けており、懲戒歴もなく、本件での一週間の出勤停止及びそれに続く七か月もの間不当に仕事を取り上げられたことにより、必要以上の制裁を受けている。

そして、原告は、本件解雇以前に、十分な弁明の機会を与えられなかった。

他方、被告は、原告の前記一1(二)及び同2(二)の各行為が解雇事由に該当しないことを知っていたというべきであり、だからこそ執拗に任意退職を強要したのである。

2  被告

原告の前記一1(一)及び同2(一)の各行為は、次のとおり重大な規律違反の行為であり、本件解雇には、真にやむを得ない正当な理由がある。

(一) 原告の上級整備士としての職責は重大であった。上級整備士の職務内容は、到着した航空機について、そのログ・ブック(航空日誌)の記載に基づき、他の整備士と共に、かつこれらを監督しつつ、ナビゲーターシステムを含む自動操縦装置等の計器類、すなわち、航空機のエンジン及び機体以外の大部分の電気・通信機器の点検・整備に当たるものであり、その整備の状況如何では航空機の運行そのものに支障をきたし、ひいては人命に影響を与えかねない、極めて重要な職務であって、また、他の業種の整備の仕事に比べ、より高い知識・技能と高度な注意義務を要求される職務である。特に上級整備士は、航空機の出発に先立ち、計器等の最終チェックがなされたことを確認するリリースの最終責任者であるところ、一月七日の勤務体制のなかでは、五名のR&E整備士のうち、上級整備士は原告一人であった。

一月七日の原告の勤務時間は、午後二時三〇分から午後一〇時三〇分までであり、本件飲酒行為時には、それ以後四時間前後の勤務が予定されていた。

このような上級整備士の職務内容及び一月七日の勤務体制に照らせば、原告の本件飲酒行為及び原告が飲酒後に勤務を継続したことは、自己の職責の重大性を全く自覚しない無責任極まる行為といわねばならない。

また、一般乗客も、航空機の整備が、航空機の安全に直結するものであることを認識しており、整備士の制服を着た原告が、一般乗客の一目につく航空機内で飲酒行為を行ったことは、それを目撃した乗客に多大の不安を与え、かつ、被告が長年培ってきた安全運行に対する顧客の信頼を根底から覆しかねない重大な違反行為である。

そして、原告は、飲酒行為の後、実際に、三便の航空機の点検・整備を行っており、その行為は極めて危険であったというべきである。

さらに、原告の右行為は、まもなく全従業員が知るところとなったのであるから、職場規律維持の点からも極めて厳正な対処が必要である。

(二) 被告は、従業員の飲酒行為に対し、厳格な規律を設け、その内容を随時掲示その他の方法で従業員に周知させている。特に、原告の飲酒行為の発生する約一〇か月前の平成二年三月には、アメリカ本国において被告のパイロットらが勤務時間前に飲酒したことにより当局に摘発されるという事件が発生した。右事件が新聞等で大々的に報道されたことにより被告の名誉・信用に重大な打撃が与えられた。被告は、世界各地の全従業員に対し、自らに課せられた最高の義務である航空機の安全を確保するため、右事件の内容、右パイロットらに対する懲戒解雇処分及び同人らの刑事裁判の経過等を、社内報及び従業員向けビデオテープ等により継続的かつ詳細に周知させるなど、飲酒行為に対する厳重な注意喚起と右規律の遵守を求めた警告を行ってきた。

原告は、これらの社内報及び従業員向けビデオテープの内容を十分承知した上で、本件飲酒行為を行ったのである。

(三) そもそも航空会社の事業には、その性格上些細なミスが重大な事故を引き起こし、多数の人命が失われるという危険が常に存在している。航空会社にとって、安全な運行は至上命令であり、航空会社の従業員としては、日常業務において細心の注意を払い事故の未然防止に努めなければならない。このような航空会社において、安全な運行確保のための根幹をなす整備の仕事に携わる者が、苟も勤務中に飲酒するなどということは、絶対に許されないことである。たとえ、飲酒の量が少量であり、かつ、実際に整備の結果に問題が出なかったとしても、原告の責任が軽減されるものではない。かかかる行為に及んだ原告は、航空会社の従業員としては完全に失格であるといわざるを得ない。

三争点③(未払賃金等の額)

1  原告

(一) 被告は、従業員に毎月二五日限り月例賃金を支給している。

原告の基本給の昇給は毎年四月分から実施され、年功手当は毎年七月分から金六〇〇円ずつ加算される。

(二) 被告は、平成三年八月一九日、原告に対し、解雇予告手当として金五七万八九〇〇円を支払ったが、原告は、これを同年八月分の月例賃金として受領した。したがって、被告の未払賃金は、平成三年九月分以降の賃金である。

(三) 原告が被告から支給されるべき月例賃金及び各一時金の明細は、別紙1記載のとおりであり、その合計額は、別紙2記載のとおり金一七七三万三五〇〇円である。

2  被告

原告の主張のうち、(一)の事実及び(二)のうち、被告が、平成三年八月一九日、原告に対し、解雇予告手当として金五七万八九〇〇円を支払った事実は認め、その余は争う。

四争点④(不法行為の成否)

1  原告

(一) 被告は、原告が前記一1(二)及び同2(二)の各行為を行ったことを奇貨として、組合活動の最大の拠点の一つである整備職場の中心的人物である原告を職場外へ放逐しようと企て、原告に対し、一旦自宅待機を命じた上で、右各行為が解雇事由に該当しないことを知りながら、原告に対する処分を七か月もの間引き延ばして、その間あたかも懲戒解雇が決定されたかのように装い退職願の作成・提出を執拗に求めるなど、原告を任意退職に追い込もうとし、原告が自宅待機命令にしびれをきらして就労を開始するや、右就労の事実を解雇事由に加えて、本件解雇を行った。

これらの一連の行為は、単なる故意による不法行為というにとどまらず、嫌がらせ以外の何物でもなく、悪意に満ちた確定的故意による不法行為を構成する。

(二) 右不法行為により原告が受けた精神的苦痛に対する慰謝料は、金五〇〇万円を下回ることはない。

(三) 原告は、平成三年八月二一日、原告訴訟代理人らに対し、本件訴訟の提起・遂行を委任し、着手金として金五〇万円及び報酬として金五〇万円を支払う約束をした。

2  被告

原告の主張はいずれも争う。原告に命じた自宅待機期間が長期にわたったとしても、それは、原告及び原告を支援する組合に原告の行為の重大性を認識させ、また、任意退職が原告のために最良の手段であることを説得するのに必要であったからである。しかも、この自宅待機を命じている間、被告は原告に対し、賃金の全額を支払っており、右自宅待機の措置はなんら不当ではない。

第四判断

一争点①(解雇事由の有無)

1  解雇事由1について

(一) 原告が、平成三年一月七日、新東京国際空港内に駐機中のNW〇〇七便の出発直前、同機内の第二ギャレー(第二調理場)内において、シャンパン入りのプラスチック製グラスを手に取り、グラスを口につけた事実は、当事者間に争いがない。

(二) 証拠(〈書証番号略〉及び原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(1) 一月七日、午後五時五〇分ころ、原告は、新東京国際空港第四サテライト内整備課控室において、航空機の故障箇所について整備マニュアルを調べていた際、マネジャーからNW〇〇七便がラジオのトラブルの件で呼んでいるからすぐに行くように言われ、同機に向かい、午後五時五五分ないし五六分ころ、右サテライトから約二キロメートル離れた駐機場に駐機中の同機に到着した。

(2) 原告は、故障内容を知るために操縦室に向かったが、二階席への階段を昇ったところで、客室乗務員から、読書灯がつかないので見てくれるよう依頼された。原告が当該読書灯を調べたところ、電球は切れておらず、複雑な検査を要する電気系統のトラブルであることが判明した。NW〇〇七便の出発時刻は午後六時〇〇分のため、出発前の数分間では修理は不可能と判断し、その旨を客室乗務員に告げ、了解を得て、その場を離れた。

その直後、操縦室内のパイロットから無線機のツマミの緩みを見てくれるよう依頼され、調べたところ、使用に支障はなく、また、出発時刻直前のため次の目的地で修理をするのが妥当と判断し、その旨をパイロットに告げ、了解を得て、操縦室から退出した。

(3) 原告は、NW〇〇七便のトラブルの件は終わったと考え、階段を降り、航空機進行方向左側の通路を通りL2のドアから機外に退出しようと思ったが、左側の通路には乗客らしき者が数名立っていたため、航空機進行方向右側の通路に向かった。

その際、右側の通路へ向かう角付近にあるR1のドアに取り付けられている緊急灯が一瞬点灯した。

(4) ところで、当時、原告は、R&E整備士の職務として、他の航空機に発生する緊急灯の故障の問題、すなわち緊急灯が真に緊急を要する事態が生じていないのにもかかわらず点灯し、その原因が不明であるという問題に、頭を悩ませていた。原告は、この日マネジャーからNW〇〇七便に行くように言われる直前にも、右故障原因の究明のために、整備マニュアルを調べていた。

(5) 原告は、一瞬点灯したR1のドアに取り付けられている緊急灯を数秒間注視したが、再度点灯しないことから、緊急灯の電気的構造と供給電源との関係から考えて、この点灯は故障ではないと判断した。

原告は、このとき、右緊急灯が一瞬点灯するのを目撃したのをきっかけにして、他の航空機に発生する前記緊急灯の問題点を解決する方法を思いつき、右方法によれば前記懸案の故障を直すことができるのだという思いで、頭が一杯になった。

(6) 原告は、このような状態で、右側の通路を進み、R2のドア付近を右折して、R2のドアとL2のドアとの間に位置する第二ギャレーヘさしかかった。

ギャレー内のテーブルには、乗客に提供するための飲料入りのプラスチック製グラスがトレーの上に並べられており、トレーの脇には乗客に提供した残りのグラスが四個ないし五個置かれていた。

原告は、喉の渇きを覚えていたことから、トレーの脇に置かれているグラスのうち、グラスの中身の色からしてジンジャーエール等の炭酸飲料と思えたグラスの一つを手にし、その中身を口にあて、ごく少量をすすった。

(7) 原告は、グラスの中身がアルコールを含んだ飲料であることに気付き、そのグラスをギャレー内のテーブルに置こうとした。そのとき、機内サービス主任のホーが右側の通路からギャレー内に入ってきた。

(8) ホーは原告に、「あなたは勤務中でしょう」と言った。原告が「はい」と答えると、ホーは、何を飲んでいるかわかっているのかという趣旨の質問をした。原告は、アルコールを含んだ飲料であることに気付いていたので「はい」と答え、「どうもすいません」と詫び、コップを置いた。そして原告は、L2のドアから機外に出た。

(三) 争いのない前記(一)の事実及び右認定事実によれば、原告は、平成三年一月七日午後六時ころ、新東京国際空港内に駐機中のNW〇〇七便第二ギャレー内において、プラスチック製グラスの中身がシャンパンであるのにこれを炭酸飲料であると誤認し、一回ごく少量をすすったと認められる。

被告は、原告がシャンパンであることを認識してグラスの中身を飲み、また、原告がホーの注意を無視して再度シャンパンを飲んだと主張し、〈書証番号略〉(ホーの社内報告書)、〈書証番号略〉(客室乗務員M・H・クオックの社内報告書)及び〈書証番号略〉(グランドホステス渡辺美鶴の社内報告書)並びに証人四戸孝泰及び同渡辺美鶴の各証言は、これに沿っている。しかしながら、証人四戸の証言(後期採用できない部分を除く。)によれば、二月一九日夜、四戸は、原告に対し、被告の人事本部長として、NW〇〇七便内で原告がシャンパンを飲んだことを通報する旨の報告書を入手していることを原告に告げた上で、飲んだのか、なぜ飲んだのかという質問の仕方で事情聴取を行ったこと、その際、四戸は、ホーの報告書内に原告がシャンパンとわかっている旨答えたことが記載されていたことから、シャンパンであると知っていて飲んだのかとは質問せず、また、ホーの注意を受けながら再度飲んだのかとも質問しなかったこと、原告は、約三時間にわたる右事情聴取の後半になり、シャンパンではないと思って間違えて飲んだことを強調し始めたことが認められ、この事情聴取の経緯に弁論の全趣旨を総合すれば、四戸及び二月一九日以前に原告に対する事情聴取を行った者は、原告がNW〇〇七便のギャレー内でプラスチック製グラスの中身を何であると思って手に取ったのか、原告が何故ホーに対しシャンパンとわかっている旨答えたのか、ホーから注意を受けた後の原告の挙動がどのようなものであったのか等、原告の行為が懲戒事由に該当するか否かを判断するための重要な事実を明らかにすることに十分意を用いなかったことが認められ、その後本件解雇に至るまで、右の点についての事実調査がされた経緯が窺われないことからしても、原告の行為についての被告の事実調査は不十分であったといわざるを得ない。そして、証人四戸の証言のうち被告の前記主張に沿う部分は、被告の右事実調査に基づくものと認められるから、〈書証番号略〉及び原告本人の供述に照らし、採用することができない。また、本件全証拠によっても、原告の右行為後の被告による事実調査の過程において、原告に対し〈書証番号略〉の閲覧又は全文の読み聞かせがなされるなど、その記載内容について正確な弁解ないし反論をする機会が与えられていたとは認められず、また、本件訴訟においても原告に〈書証番号略〉の作成者に対する尋問の機会がなかったことは訴訟上明らかであり、〈書証番号略〉は、〈書証番号略〉及び原告本人の供述に照らし、いずれも採用することができない。さらに、証人渡辺は原告の問題の行為を目撃した者であるが、同証人の供述する右行為前後の原告の行動は出発直前の航空機を整備する整備士の合理的な行動とはおよそ認め難いし、〈書証番号略〉についても、同証言により、その作成過程において同証人が実際に体験した事実を記載するか否かの取捨選択を行った経緯が窺われ、被告の前記主張に沿う同証言及び〈書証番号略〉は、これまた、いずれも採用することができないというべきである。

(四) そこで、右(三)認定の原告の行為(以下「本件行為」という。)が、被告の主張する解雇事由に該当するかを検討する。

(1) 就業規則二六条によれば、普通解雇事由とは同条B項の各号に該当する行為であり、かつ、情状が特に悪い場合である。そして、被告が指摘する解雇事由は、二六条B項2号、7号及び8号である。

(2) まず、二六条B項2号は「賭博、飲酒、風紀紊乱等により職場規律をみだした場合」と規定しているが、その文言からすれば「賭博、飲酒、風紀紊乱」とは故意による行為を意味すると解すべきであり、また、「等」とは故意による賭博、飲酒及び風紀紊乱と同視できる程重大な職場規律違反を生じさせるおそれのある行為を意味すると解すべきである。

そうすると、本件行為は、アルコールを含む飲料であることの認識を欠いて行われたものであり、故意による飲酒行為ではないから、同号の「飲酒」には該当しない。

また、たしかに航空機整備士の職業倫理としては、勤務中にはたとえ誤ってであってもアルコール類は口にすべきではないといえるかもしれないが、本件行為は、過失によりごく少量のシャンパンを一回すすったというものであって、乗客が本件行為を目撃する可能性を否定することはできないことをあわせて考えたとしても、故意による賭博、飲酒及び風紀紊乱と同視しうる程重大な職場規律違反を生じさせるおそれのある行為に該当すると認めることはできない。

したがって、本件行為は、二六条B項2号に該当しない。

次に、二六条B項7号は「業務上の命令を守らず、又はこれを破り、又は戒告を無視した場合」と規定しているが、その文言からすれば、同号は故意に業務命令に違反する行為及び故意に戒告を無視する行為を意味すると解すべきである。

そして証拠(〈書証番号略〉及び証人四戸)によれば、本件行為の当時、被告は、その従業員に対し、勤務中にアルコール飲料を摂取してはならないことを業務上命じていたと認めれる。しかしながら、前記認定のとおり、本件行為は、アルコールを含む飲料であることの認識を欠いて行われたものであるから、故意に右業務命令に違反する行為には該当しない。

さらに、二六条B項8号は「会社の所有物、備品を破損、亡滅、遺失し会社の業務に損害を与えた場合」と規定している。

しかしながら、前記認定のとおり、本件行為の対象となった飲料は、被告が乗客に提供した残りの飲料であり、また、その量は一口すすった程度と認められるのであって、かかる態様の行為をもって、被告の所有物又は備品の破損、亡滅又は遺失に該当すると認めることはできない。

(3) 以上の検討によれば、本件行為は、就業規則二六条B項2号、7号及び8号のいずれにも該当しない。

2  解雇事由2について

(一) 証拠(〈書証番号略〉)によれば、被告は、その従業員に対して、アルコール飲料の影響を受けた状態で勤務を行うことを禁じていたことが認められ、それゆえ、従業員は、何らかの原因により勤務中にアルコール飲料の影響を受けた状態に陥った場合には、上司にその旨を報告して勤務の継続について指示を求めることが命じられていると解するのが相当である。

(二) 証拠(〈書証番号略〉及び原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件行為後、勤務時間終了時まで整備作業を継続し、その間、上司に対し、本件行為につき報告して整備作業の継続について指示を求めたことはなかったものと認められる。

しかしながら、本件行為が前記認定のとおりグラスのシャンパンを一回ごく少量すすった程度のものであることに、右証拠をあわせれば、原告は本件行為後アルコール飲料の影響を受けた状態にはなく、また、原告自身もアルコール飲料の影響を受けたとの認識を欠いていたと認められるから、原告の本件行為後の右行為は、就業規則二六条B項7号ないし2号に該当するものではないというべきである。

3  解雇事由3について

(一) 証拠(〈書証番号略〉、証人四戸及び原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、一月一〇日ころ、NW〇〇七便の機内サービス主任であるホーから被告の機内サービス本部長等に対し、原告がNW〇〇七便内でシャンパンを飲んだ旨のレポートが電子メールで送付されたこと、一月一四日、被告のバレット太平洋地区整備本部長が、原告に対し、NW〇〇七便内でシャンパンを飲んだかどうかを尋ね、原告から一口口にした旨の返事を受けて、一週間の出勤停止を口頭で命じたこと、一月一八日、被告の和泉秀雄整備部長が、原告に対し、一月中の自宅待機を口頭で命じたこと並びに一月一四日及び一月一八日の各時点では被告により原告のNW〇〇七便内での行為の事実調査が継続されていたことが認めれ、これらの事実に、一般的にいって航空機整備士が勤務中の航空機内で故意に飲酒をしてなお整備作業を継続したとすれば、それは当該整備士が勤務する航空会社内の職場規律を著しく害する行為と考えるのが社会通念に合致することをあわせ考えると、被告は、原告のNW〇〇七便内での行為が就業規則所定の懲戒事由に該当することを疑い、その行為に関する事実調査及び懲戒処分の選択等のためには相当程度の時間を必要とすると考え、事実調査の結果如何によっては、右行為が重大な職務規律違反行為に該当する可能性があること及び事案の性質上処分の決定まで原告の就労を許した場合には、被告の社会的信用等が害されるおそれがあること等を懸念して、遅くとも、一月一八日までに、原告に対し、自宅待機を命令したと認めるのが相当である(以下「本件自宅待機命令」という。)。

また、原告が八月一一日から一三日までの三日間就労したことは当事者間に争いがなく、証拠(〈書証番号略〉及び原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、本件自宅待機命令は、本件解雇まで継続されたこと及びその間原告に対し賃金等の支給がされていることが認められる。

(二)  原告は、被告の就業規則及び労働協約上懲戒処分としての自宅待機の定めはない旨を主張するが、使用者が従業員に対し労務提供の待機を命じることは、当該従業員の労務の性質上就労することに特段の利益がある場合を除き、雇用契約上の一般的指揮監督権に基づく業務命令として許されると解されるところ、本件全証拠によっても、航空機の上級整備士という原告の職務に右特段の利益を認めることは困難であり、本件自宅待機命令は被告の業務命令と認められる。そして、業務命令としての自宅待機も正当な理由がない場合には裁量権の逸脱として違法となると解すべきところ、証拠(証人四戸)によれば、ホーの前記レポートの内容は原告のNW〇〇七便内での行為が就業規則所定の懲戒事由に該当することを疑わせるに足りるものであり、被告が前記(一)認定の懸念を抱くこともやむを得ないと認められることに照らすと、本件自宅待機命令の発令には正当な理由があったものと認めることができる。

したがって、被告が原告に対し、一月一八日までに自宅待機を命じたことは、被告の裁量権の範囲内でされた適法なものと認められる。

(三)  しかしながら、証拠(〈書証番号略〉及び証人四戸)によれば、二月下旬までには四戸は直接ホーから事情聴取をしていること及び被告と組合間の団体交渉の過程で四月初旬までには、原告の弁解の核心がアルコールを含む飲料であることの認識を欠いていたことと右飲料を口にした態様・回数にあることが判明していたことが認めれる。これらの経緯には、証拠(証人四戸及び原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、被告が本件自宅待機命令を長期間継続した主たる目的が、原告がNW〇〇七便内で故意にシャンパンを二回飲んだという認定事実を前提にして、原告に任意の退職を求めることにあり、その間必要な事実調査を尽くさなかったと認められることをあわせ考えると、少なくとも原告が就労を開始した八月一一日の時点においてもなお被告が本件自宅待機命令を継続したことは、正当な理由を欠く違法なものといわざるを得ない。

(四) そうすると、原告が、八月一一日から三日間就労した行為は、違法な業務命令に従わなかった行為に過ぎず、これをもって就業規則二六条B項7号に該当するとは解することができない。

4  以上の検討によれば、本件行為、本件行為後整備作業を継続した行為及び八月一一から三日間就労した行為は、いずれも解雇事由に該当せず、また、これらを総合しても解雇事由には該当しない。

そうすると、争点②(解雇権濫用)について判断するまでもなく、本件解雇は無効である。

二争点③(未払賃金等の額)

1  被告の従業員に対する月例賃金の支給日が毎月二五日であること及び原告の基本給の昇給が毎年四月分から実施され、年功手当が毎年七月分から金六〇〇円ずつ加算されることは当事者間に争いがない。

証拠(〈書証番号略〉)によれば、被告の一時金の支給日が、平成三年年末一時金は同年一二月一〇日であり、平成四年夏期一時金は同年六月一〇日であり、平成四年年末一時金は同年一二月一一日であることが認められる。

被告が平成三年八月一九日原告に対し解雇予告手当として金五七万八九〇〇円を支払ったことは、当事者間に争いがなく、本件解雇が無効とされる場合には、右金員はこれを同年八月分の月例賃金に充当することとするのが当事者の合理的意思に沿うものと解されるから、本件解雇が無効である場合に原告に支給されるべき月例賃金及び一時金は、平成三年九月二五日以降に支給されるべきものであることになる。

2  証拠(〈書証番号略〉)によれば、本件解雇が無効である場合に原告に支給されるべき月例賃金は、基本給、運転手当、年功手当、ランプ手当、家族手当及び住宅手当の合計額であり、別紙1の一(月例賃金)記載のとおりであること、また、証拠(〈書証番号略〉)によれば、本件解雇が無効である場合に原告に支給されるべき一時金は、別紙1の二(一時金)記載のとおりであることが認められる。

したがって、原告が、平成三年九月二五日以降本件口頭弁論終結の日である平成五年六月一八日までに支給されるべき賃金等は、別紙2記載のとおり金一七七三万三五〇〇円と認められる。

三争点④(不法行為の成否)

1 証拠(〈書証番号略〉及び原告本人)によれば、一月二五日、和泉整備部長が原告に対し、自主的に退職するか解雇されるかの選択しかない旨を告げたこと、二月八日、和泉が原告に対し、任意退職のための所定の用紙を交付して同月一四日までに署名して提出することを求めたこと、二月一九日夜、四戸人事本部長が原告に対し、会社は懲戒解雇を決定しているが、任意退職をすれば退職金を支給するなどと言った上で所定の用紙を示しながら任意退職を勧めたことが認められる。

他方、前記認定のとおり四戸が直接ホーから事情聴取をしたのは二月下旬であり、また、証拠(証人四戸)によれば、被告が原告を懲戒解雇することを最終的に決定したのは二月下旬ないし三月上旬であったことが認められる。

そうすると、和泉及び四戸の原告に対する右任意退職の勧奨は、未だ事実調査が終了しておらず、したがって、被告の最終的な懲戒処分の選択・決定もされていない時期に行われたものであり、本件全証拠によっても、被告が解雇事由の存在しないことを認識していたとまでは認められないものの、懲戒処分の選択・決定の前提となる事実調査を尽くさないでされたものであると認められる。

また、被告が、必要な事実調査を尽くすことなく本件自宅待機命令を継続し、少なくとも既に違法と評価せざるを得ない八月一一日ないし一三日の段階で右命令に違反したことを解雇事由に加え、本件解雇を行ったことは、前記認定のとおりである。

このように、被告は、必要な事実調査を尽くすことなく、また、前記認定のとおり、本件行為の態様は過失によりごく少量のシャンパンを一回すすったという軽微なものであるにもかかわらず、原告に対し、任意退職を働きかけ、自宅待機命令を継続し、さらに本件解雇の意思表示をするに及んでいるものであり、これらの被告の一連の行為は、違法に原告の権利を侵害するものとして、不法行為を構成するというべきである。

2(一) 証拠(〈書証番号略〉及び原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、前記任意退職の勧奨により懲戒解雇か任意退職かというジレンマに陥らされ、かつ、本件解雇により航空機整備士という技術職としての専門技術的労働能力の低下を余儀なくさせられるなどの精神的苦痛を受けたことが認められる。

原告の右精神的苦痛に対する慰謝料は、金一〇〇万円と認めるのが相当である。

(二) 弁論の全趣旨によれば、原告は本件訴訟の提起及び遂行を原告訴訟代理人らに委任し、着手金及び報酬を支払う約束をしたことが認められるところ、本件訴訟の経緯、難易度等を考慮すれば、本件不法行為と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害として被告が賠償すべき額は、金三〇万円と認めるのが相当である。

第五結論

以上によれば、原告の請求は、原告と被告との間で原告が被告に対して労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求め、被告に対し、(1)平成三年九月二五日以降本件口頭弁論終結の日である平成五年六月一八日までの未払賃金等合計金一七七三万三五〇〇円及び内金四二二万九七〇〇円に対する弁済期の経過した後である平成四年一月一日から、内金一〇五五万六六〇〇円に対する弁済期の経過した後である平成五年一月一日から各支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金並びに平成五年六月二五日以降毎月二五日限り一か月当たり金五九万三一〇〇円の月例賃金、(2)慰謝料金一〇〇万円と弁護士費用金三〇万円の合計一三〇万円及びこれに対する本件不法行為の後であり、記録上明らかな本件訴状送達の日の翌日である平成三年九月六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条ただし書、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官河本誠之 裁判官安藤裕子 裁判官髙梨直純)

別紙一

一 月例賃金

1 平成三年九月から平成四年三月までの各月分

基本給 五〇万一〇〇〇円

運転手当 一五〇〇円

年功手当 一万三八〇〇円

ランプ手当 三〇〇〇円

家族手当 三万〇五〇〇円

住宅手当 二万二〇〇〇円

合計 五七万一八〇〇円

2 平成四年四月から平成四年六月までの各月分

基本給 五一万五六〇〇円

運転手当 一五〇〇円

年功手当 一万三八〇〇円

ランプ手当 三〇〇〇円

家族手当 三万〇五〇〇円

住宅手当 二万二〇〇〇円

合計 五八万六四〇〇円

3 平成四年七月から平成五年三月までの各月分

基本給 五一万五六〇〇円

運転手当 一五〇〇円

年功手当 一万四四〇〇円

ランプ手当 三〇〇〇円

家族手当 三万〇五〇〇円

住宅手当 二万二〇〇〇円

合計 五八万七〇〇〇円

4 平成五年四月から平成五年五月までの各月分

基本給 五二万一七〇〇円

運転手当 一五〇〇円

年功手当 一万四四〇〇円

ランプ手当 三〇〇〇円

家族手当 三万〇五〇〇円

住宅手当 二万二〇〇〇円

合計 五九万三一〇〇円

5 平成五年六月以降の各月分

上記四と同じ

二 一時金

1 平成三年年末一時金

(基本給+運転手当+家族手当+住宅手当)×3.5

(50万1000円+1500円+3万0500円+2万2000円円)×3.5

=194万2500円

2 平成四年夏期一時金

(基本給+運転手当+家族手当+住宅手当)×3.5

(51万5600円+1500円+3万0500円+2万2000円円)×3.5

=199万3600円

3 平成四年年末一時金

(基本給+運転手当+家族手当+住宅手当)×2.75

(51万5600円+1500円+3万0500円+2万2000円円)×2.75

=156万6400円

別紙二

平成三年九月分賃金

五七万一八〇〇円

一〇月分賃金 五七万一八〇〇円

一一月分賃金 五七万一八〇〇円

一二月分賃金 五七万一八〇〇円

年末一時金 一九四万二五〇〇円

平成三年合計 四二二万九七〇〇円

平成四年一月分賃金

五七万一八〇〇円

二月分賃金 五七万一八〇〇円

三月分賃金 五七万一八〇〇円

四月分賃金 五八万六四〇〇円

五月分賃金 五八万六四〇〇円

六月分賃金 五八万六四〇〇円

夏期一時金 一九九万三六〇〇円

七月分賃金 五八万七〇〇〇円

八月分賃金 五八万七〇〇〇円

九月分賃金 五八万七〇〇〇円

一〇月分賃金 五八万七〇〇〇円

一一月分賃金 五八万七〇〇〇円

一二月分賃金 五八万七〇〇〇円

年末一時金 一五六万六四〇〇円

平成四年合計

一〇五五万六六〇〇円

平成五年一月分賃金

五八万七〇〇〇円

二月分賃金 五八万七〇〇〇円

三月分賃金 五八万七〇〇〇円

四月分賃金 五九万三一〇〇円

五月分賃金 五九万三一〇〇円

平成五年一月分から五月分までの合計 二九四万七二〇〇円

平成三年九月から平成五年五月までの各月分賃金及び各一時金の合計

一七七三万三五〇〇円

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